「東南アジアの社会と文化研究会」のお知らせ

第34回 <2007/11/16>
青木恵理子氏(龍谷大学社会学部)
「社会変容の固有音と通奏低音: 『改革』の時代のインドネシアにおける東部インドネシア・フローレス島の事例に焦点をあてて」

 「東南アジアの社会と文化」研究会を、京都人類学研究会 11 月例会との共催で、以下のとおり開催いたします。 オープンな研究会ですので、ふるってご参集くださるようお願いいたします。なお開始時間が通常と異なりますので、ご注意ください。

配布資料

●日時

2007年11月16日(金) 17:00 −19:00 (16 :30 開場)

●場所

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 
工学部4号館 4階会議室(AA447)

●話題提供者

青木 恵理子( 龍谷大学社会学部 )

●発表要旨

 スハルト政権が1998年5月に倒れてから、インドネシアでは、「改革reformasi 」、なかでも地方分権化と民主化が、急速に推し進められてきた。分権化・民主化の影響は、中央からの距離、階層、文化の違いによって大きく異なる。影響の大きい地方、階層、文化についてはよく取り上げられるが、影響のとらえどころのない地域や文化はほとんど取り上げられない。しかし、そのような地域は少なくない。ここで取り上げるフローレス島中央山岳部のWG地域はその一例である。
 言うまでもないが、インドネシアの地域社会は多様である。17世紀にはジャワ島を、20世紀初頭からインドネシア各地を巻き込んでいった植民地体制による抑圧と教化、第二次世界大戦後のインドネシア国家体制による抑圧と教化から、 WG地域はごく限られた影響しかうけてこなかった。辺境にある、持たざる者たちの幸運により、植民地政府もインドネシア中央政府の持続的な介入から免れてきた。植民地化以前にも、ヒンドゥー、イスラム王権の影響をこうむった証拠はみられない。かなりの程度、自治と民主的な社会を実現してきたWG地域にとって、インドネシア政府による分権化と民主化の推進はどのような意味を持つのだろうか。
 インドネシアにおける分権化は、その見せかけに反して、グローバルな圧力のもと、ナショナルな中心周辺構造を守るために施行された。確かに、天然資源の豊富な地方、抑圧蹂躙されていた地方には、望ましい一面を持っている。しかし天然資源を欠き、中央政府によって持続的な関心を払われてこなかった WG地域の生活世界に、分権化の直接的な影響を見い出すことはむずかしい。
 2004 年の直接総選挙、正副大統領選挙は、インドネシアにおける民主主義が一応の成立を見たとされる。しかしながら、選挙の結果からは、「ジャワ(中心主義)+エリート統治」の基盤となる選挙民主主義体制成立が見て取れる。インドネシアの推進する「民主化」は、自治と民主的な社会を実現してきたWGの人々にとって、統治される周辺的国民となる契機となるかもしれない。
 このような「改革」の時代に、WG地域社会の中核部分でかなり興味深い変化が見られた( 2006年フィールドワーク)。それを紹介しながら、「社会変容の固有音と通奏低音」について考察する。


[研究会世話人/事務局]
杉島敬志 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
林  行夫 (京都大学地域研究統合情報センター)
速水洋子 (京都大学東南アジア研究所)
伊藤正子 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
王 柳蘭  (京都大学大学院・アジアアフリカ地域研究研究科)