「東南アジアの社会と文化研究会」のお知らせ

第28回 <2006/09/15>
高橋美由紀 (兵庫教育大学)
「シンガポールの英語重視政策が華人社会に与えた影響について: 子ども達の言語教育環境の視点から」

 第28回定例研究会を下記の通り開催します。今回は兵庫教育大学の高橋美由紀氏が、シンガポールの英語重視政策が華人社会に与えた影響について報告します。多くの方の参加をお待ちしています。研究会終了後、懇親会を行いますので、こちらにも振るってご参加ください。

●日時

2006年9月15日(金) 16:00−18:00

●場所

京都大学東南アジア研究所 東棟2Fセミナー室

●話題提供者

高橋美由紀(兵庫教育大学)

●発表要旨

 多民族・多言語国家であるシンガポールは言語政策として、1965年のマレーシア連邦からの分離独立以来、英語と民族語のバイリンガル教育を実施している。現在、学校での教育用語は英語であるが、「Mother Tongue民族語」と「Moral Education道徳(公民)」の科目については民族語を教育用語としている。 本発表では、シンガポール国民の76%を占める華人社会において、親たちが英語教育重視政策で教育を受けた英語家庭の子ども達の家庭と幼稚園での言語教育環境から、この政策が華人社会におよぼした影響について考察する。その際、次のような事象に言及する。1)英語家庭では子ども達の母語が英語になっているという現状、2)中国語に対してコンプレックスを持っている親が多いこと、3)日常生活では使用する機会がないために、中国語を苦手とする子どもが増加していること4)その対策として中国語教育が就学前の教育で実施されていること等である。シンガポールの言語教育において、英語は多様な民族間で経験を共有したり、コミュニケーションを行う時の手段として位置づけられている。他方、中国語は華人の文化を継承するための華人社会の共通言語として日常生活で使用することが奨励されている。シンガポールでは子ども達の進路が小学校卒業試験をはじめとする早期からの振り分けテストで決定される。こうしたテストでは、英語と民族語(中国語)の成績が大きく影響する。また、民族語教育では小学校1年生から「上級」と「普通」に振り分けられ、子ども達は、能力に応じて「上級中国語Higher Chinese」と「中国語 Chinese」のいずれかを学んでいる。さらにまた、英語と中国語の双方を第一言語として学ぶ、Special Assistance Plan (SAP) Schoolがあり、トップレベルの成績の子ども達が通っている。 シンガポールの言語教育は、就学前教育から始まる。政府機関の幼稚園では、英語と中国語のレッスン時間はそれぞれ50%とされているが、私立の幼稚園では、英語教育と華語教育のレッスン時間や内容は園によって異なっている。 金銭的に余裕があり、教育熱心な英語家庭では、子ども達を中国語教育にウエイトを置いている幼稚園に通わせている。これらの幼稚園では、中国語のネイティブ教師を雇用し、日常の保育でも中国語を使用している。先にのべたように、英語家庭では日常生活でも中国語は使われない。そのため、保護者は、幼稚園の中国語教育で、子ども達が中国語に慣れ親しみ、中国語を自然に使用できるようになることを望んでいる。また、小学校から能力別の中国語教育がおこなわれるので、就学前のドリル的な詰め込み学習の効果にも期待している。 今回の発表では、以上のような事象を提示することで、英語教育重視政策が与えた影響について、英語家庭の子ども達の言語教育と言語環境から考察する。

*この研究会は原則として奇数月の第三金曜日に開催されます。なお、7月は夏休みとし、研究会は開催しません。
研究会の案内はメールを通じて行っています。
お知り合いのとくに学部生・院生・若手研究者に、このメールを転送するなどして、
案内リストへの参加をお勧めいただければ幸いです。
案内リスト参加希望者の連絡先は、kobe@asafas.kyoto-u.ac.jpです。


[世話人]
杉島 敬志(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
林 行夫(京大地域研究統合情報センター)
速水 洋子(京大東南アジア研究所)

[連絡係]
河邉孝昭(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科院生)
吉田香世子(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科院生)
吉村千恵(京大大学院アジア・アフリカ地位研究研究科院生)